Saxグルメパッド(カンガルー黒革タンポ)

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アメリカのサックスの神と呼ばれる有名リペアマン、スティーブ・グッドソン(Steve Goodson)が開発した「Saxグルメパッド」。カンガルーの革で作られたサックス用のパッドは、見た目は黒く、とてもインパクトがあります。中に装着するレゾネーターの種類も多く、付ける素材とサックスの組み合わせによって色々な可能性があるパッドです。

純正タンポ以外を使用して、違いを楽しむ習慣のあまりない日本での知名度はそれほど高くなく、知る人ぞ知るパッド。
今回は実際にこのSaxグルメパッドを使用している関西出身のプロサックス奏者・古谷光広さんに使い心地をインタビューさせて頂きました。

World Frontier(以下WF)Saxグルメパッドをお使いのサックスに付けていらっしゃるとお聞きしました。どのサックスに使われているのですか?

古谷 光広氏(以下古谷):セルマーのシリーズⅢ、テナーサックスです。

WFこのカンガルーパッドを使われたきっかけはどういったことなんでしょうか?

古谷:元々はソプラノ、アルトサックスでオランダ製楽器、トップトーンを使っていました。そのトップトーンに純正品として付いていたタンポがゴムでできた黒色のタンポだったんです。それが非常に音抜けが良く、気にいってセルマー・シリーズⅢのテナーにもトップトーンのタンポを入れていたのですが、トップトーンが倒産したためにパーツが入手できなくなり、担当のリペアの人から代替品として薦められたのがこのカンガルーパッドでした。

WFトップトーンのゴム製パッドの代替品として使い始められたんですね。実際に使ってみていかがでしたか?

古谷:一度、トップトーンの黒タンポを使うと、セルマーとかの純正タンポ、いわゆる茶色のヤギ革タンポに戻せなくなってしまってたんです。カンガルーパッドはトップトーンのゴムタンポとは素材も違いますが、同じ音感を引き出してくれました。


WFSaxグルメパッドの良い所はどんな所ですか?

古谷:やはり抜群の耐水性と音抜けの良さ。タンポも替えてないようなすごい昔のバランスアクションみたいに音抜けが良い!僕はリゾネーターを波型の物を使っているのですが、波型の影響で振動が乱反射するので、ドカーンと大きい音がでる。まぁ個人差もありますが。
音色はサックス自体、タンポではなくネックの部分で変わってくるので、他のタンポとあまり変わらないが、パワーはこの波型のレゾネーターの方が断然ある。波状のものの方が、音の乱反射があるので、管の中での音が跳ねる。金属疲労したボディがパッドによって蘇る感じですね。

WFカンガルーの革は、かなり丈夫だと聞いていますが、メンテナンスの頻度は減りましたか?

古谷:結構、荒い使い方しているけれど良くもってくれるタンポですね。タンポ交換の回数で言えば、これで使い始めて4年ちょっと。最近やっと上管のタンポが破れ始めたので、そろそろ交換かな?と言われています。
ただ、タンポ調整の回数で言えば普通のタンポ使っていた時と変わらないと思います。と言うのもカンガルーパッドはタンポ自体が非常に柔らかく、伸縮性が高いため、キィをグッと力強く押さえてやらないといけない。強度はあるので破れないが、タンポ調整は必要になってきます。
普通のタンポは丸い形が付くと破れてしまう。僕の場合の通常使用で考えれば、普通のタンポだと破れるまでが早くて、そこから水分が入るためにフェルトが劣化してします。表面は耐水性があっても破れたら終わり。なのでタンポの寿命は短くなります。
その点、Saxグルメットパッドは、さっきも言ったみたいに破けた状態になったのがここ最近のことなので、かなりの耐久性と言えますよね。

WFどんな奏者に向いているパッドだと思いますか?

古谷:演奏の仕方はSaxグルメパッドは柔らかいがゆえに、しっかりキィを押さえないといけないので、ビンテージのSaxでしっとり演奏したいタイプの奏者には向いてないかもしれない。
でも、キィコントロールがしっかりできて、音量を出したい奏者にはおすすめです。何よりも音抜けは断然良くなる。
ただリペアする人の視点からは、柔らかいので扱いづらいようですが(笑)
演奏的には反応はとても早い。スタジオ(レコーディング)向きか、屋外向きかで言っても、特にシーンは選びません。お酒を飲むところでしっとり演奏、という方には向かないのかもしれないですが、それでも、小さい音、大きい音のどちらも非常に出しやすい。
次に全タンポ交換するとしても、AltoとTenor、Baritoneはこのパッドを選ぶと思います。
僕の場合は、ライブや演奏の時に、演奏後のMCの間にタンポが手入れされないまま、パリパリに乾いてしまうけど、それでも4年間破れないし劣化も少ないので。それぐらい丈夫ってことです。過酷な使い方をする人には特にいいかも。


WF: これから使用を考えている奏者の方々へ、他にアドバイスなどありますか?

古谷:僕の周りに何人かこのパッドを付けてる人がいるんですが、その中で、セルマーのオールドのM6、アルトに使っている人が、息の入り方が軽くなったと言っていました。金属疲労しているサックスを、Saxグルメパッドが助けているのかもしれない。
その人はパッドを替える前は、ESM のヘブンのマッピを使っていたが、このパッドを付けるようになってから、息が入りやすくなったのでダーク系のマッピへ変えたそうです。

僕自身、トップトーンから持ち替えて、ここがやりにくくなったという感覚はありませんでした。
そう言えば、日比野則彦さんがアメリカのバークリーから帰ってきた時に緑色のパッドだったんです。アメリカとかでは自分の吹奏感や音を求めてパッドを純正と違うものを使うことは一般的なのかもしれない。
カンガルーパッドを使う方々には、破けることはまずないので、怖がらずに強く押さえて演奏することをお薦めします。このパッドは硬くなると伸び縮みが少なくなるので、寒いときはロングトーンでウォームアップをするなどをすべきかもしれません。

楽器本体は金属で、使用すればするほど育っていくのに、タンポだけはずっと最初と同じものを使って新品に代えていくのはちょっともったいない。楽器の育ち具合によってタンポの種類も変わっていってしかるべきだし、その時々に楽器の力を引き出せるものをつけるべきだと思います。

WFどうもありがとうございました。

古谷光広(ふるや みつひろ)

1973年8月13日、大阪生まれ。
幼少の頃より父(古谷充)の影響で洋楽を聴くようになり、ヤマハ音楽院幼児科で音楽の基礎とピアノを習うようになる。小学校時代にクラブでトランペットを吹くようになるが、中学校の吹奏楽部でサックスに転向する。
高校時代より、立命館大学R.U.Swingin’ Hard Jazz Ensemble(ビックバンド)のレギュラーメンバーとして参加。以降音楽活動を開始する。その後、大阪音楽大学短期大学部音楽専攻ウインドアンサンブルコース・ジャ ズ科では本格的にジャズ・サックスを赤松二郎氏、奥田章三氏、宗清洋氏、理論を田中克彦氏に習う。

その頃より、東原力哉(dr)神田芳朗(b)高橋達哉(ts)松本英彦(ts)中山良之(ts)土岐英史(as)
田中ひろし(pf)村上「ポンタ」秀一(dr)クリヤマコト(pf)金澤英明(b)佐山雅弘(p)
バカボン鈴木(b)堀尾哲二(dr)田中 武久 (pf) 塩次伸二(gt)等、
海外アーティストでは、ポールジャクソン(b)マーティ・ブレイシー(dr/ex.もんたよしのりバンド)マイケルレイ(key)クリスティン・グレイ(ブーツィーコリンズバンドvo) エディーヘンダーソン(tp)ブッカーTウリアムスJr(ts)デイヴリー ヴマン(ts.ss)ハンクジョーンズ(p)エリック・マリエンサル(as)ニューマン・テイラー・ベイカー(Dr)等、数多くの一流ミュージシャンとのセッションを経験して現在に至る。

また、1996年にはオリジナルフュージョンバンド「RAMMTARRA(ラム タ ラ)」を結成。
(後に「KHAMSIN(カムシン)と名称変更する)
1998年3月には1stアルバム「KHAMSIN」をリリースする。
4年間の活動後解散し新たに「BLOW UP GROOVE」というオリジナルフュージョンバンドを結成。
1997年12月アトランタでの演奏旅行、
1998年の9月には野々村明とグローバル・ジャズ・オーケストラ(ビックバンド)でモンタレイ・ジャズ・フェスティバルに出場、好評を得る。2002年より、IAJE(国際ジャズカンファレンス)等にも参加し、多くのミュージシャンと交流を深める。セッションやプロジェクトにも多く参加しており、レコーディングも参加する。今では、第2の楽器「EWI(エレクトリック・ウインド・インストゥルメンツ)」を使いこなし多くの好評を得ている。また、後輩の指導にも力を入れており、スチューデントジャズフェスティバルの強化合宿に参加し、各学校へトレーニングをしている。

2011年12月15日 アルソ出版より「EWI BEST Maniax!(CD付)」2,520円(税込)を出版。http://www.alsoj.net/store/view/ALEWIS2.html EWI演奏、作曲等においても日本を代表するプレーヤーのひとりである。